が営放休みな

女の子たちが傍に寄ってきて、褒めてくれた。男らしいなどと、いまだかつて言われたことの無い禎克は目を丸くしていた。
言いたいことも言えずに、いつも湊くんの後に隠れているだけだった女の子みたいに可愛い「さあちゃん」が、男の子に格上げされた瞬間だった。
もっとも、下半身はふりちんで、間抜けなままだったのだけれど。
こまどり幼稚園でのそんな事件は、それだけでは終わらなかった。
その夜、大二郎の父親が川俣先生に話を聞き、菓子折りを持って自宅に謝りに来た。
禎克の母はかかってきた電話に丁重に断りを入れたのだが、気が済まないので謝罪にお伺いします、と向こうは食い下がった。
住宅街の禎克の家に長いリムジンに乗って現れた、その人物のインパクトはかなりのものだった。
「夜分に恐れ入ります。本日二回公演だったものですから、お伺いす商標註冊 中國るのがすっかり遅くなってしまいました。なんでもこちらの坊ちゃんに、うちの子倅(こせがれ)がずいぶん失礼なことをしたそうで申し訳もございません。」
「重々、言って聞かせますんで、どうぞ勘弁してやっておくんなさい。」
羽織はかまの黒紋付姿の男が、玄関先に現れるなり土下座して、禎克の両親はその時代錯誤な行動に、顔を見交わし抱き合ったまま呆然としていた。
小さな声で思わず、何、これどこの時代劇……?どっきり?と口走っている。
「あの……あのっ。お手を上げてください。お気持ちは十分伝わりましたから。」
「それに子供のしたことですから。喧嘩なんて誰でもします。」
「温かいお言葉、痛み入ります。」
対処に困った禎克の母親が、思わず膝を落とし目を合わせた。大二郎に良く似た奥二重の涼しい目元が流れる。見覚えのある端正な顔に母は、はたと気が付いた。
「もしかすると……。あなた、柏木醍醐(だいご)さん……じゃありませんか?あの、あの……大衆演劇の。わたしの母が大好きだったんです。」
「はい。わたくし三代目、柏木醍醐でございます。勿体無くも世間さまには「流し目若さま」などと二つ名で呼ばれております。ご当地初お目見えで、初手からこのような仕儀となりまして、面目次第もございません。」
「きゃあ、やっぱり~。」
柏木醍醐は、再びその場に手をつき深々と頭を下げた。
どうやら柏木大二郎は、大衆演劇の世界ではかなり有名な柏木醍香港商業專科學校醐の一人息子らしい。地元の大きなホテルの温泉施設で公演を打っている間、こまどり幼稚園に通うらしかった。
「あの、お時間があるのでしたら、どうですか?一献。わたしは、明日の土日んですが、柏木さんはお忙しいですか。」
「いえいえ、わたくしの稼業は午前中は暇しておりますから。お言葉に甘えまして、お盃頂戴いたします。」
これも何かのご縁ですからと、柏木醍醐は美々しい顔をほころばせた。女形になっては生きた日本人形と言われる醍醐は、男役としては殺陣のできる新進俳優として国送に欠かせない役者だった。まだ二十歳そこそこのはずで、とても子供がいるとは思え無い。
子を持つ親同士の気安さからか、初対面だと言うのに、意外に話は弾んだ。
柏木醍醐は柔らかな笑みを浮かべて、勧められるまま盃を重ねた。
「柏木さん。お聞きしてもいいですか?」
両親は、やはりどこか雰囲気の違う柏木醍醐に、興味津々だった。
「はい。なんなりとお聞きください。」
「あの、柏木さんって、ずいぶんお若く見えますけど、おいくつなんですか?」
「はい。現在21歳になります。大二郎はわたくしが17歳の時にできた子供です。」
「そうですか~、そんなに若くして父親になったんですね。柏木さんとぼくとは、10も違うのか。年の割にずいぶん落ち着いて見えて、羨ましいです。」
「いえいえ。裏では劇団員に若年寄と、陰口を言わますよ。実はわたくしのような稼業では、早く結婚して子供を持つことは、劇団の経営上にも必要だったりするんです。」
「へぇ。」
そんな話は勿論、初めて聞いた禎克の父だった。
「小さい子が踊っていると、どなたもつい応援したくなるようで、たくさんご祝儀を下さいますから。わたくしの初舞台は、一歳そこそこでした。おむつをしたまま踊っている写真が残っております。」

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